系共通(学部)
○伊藤和行「科学史入門I」(講義)(前期水2)
〔授業の概要・目的〕
科学とは時間や空間を超えた普遍的なものと一般にみなされている.しかし人間の営みである以上,科学も歴史のなかで誕生し発展してきたものであり,その成果も歴史的な文脈によって規定されている.
近代科学は,17世紀西欧社会において誕生したと考えられている.近世日本(江戸時代)における自然研究および近代日本(明治時代)への西欧科学の導入を,当時の歴史的文脈の中で理解することは,現代科学の理解にとっても重要である.
〔授業計画と内容〕
本講義では,近世日本における科学の発展を,17世紀から20世紀初頭(江戸時代から明治・大正期)までたどり,どのようにして近代西欧科学が日本に移入され,定着されていったのかを考察する.
以下の項目に従って進める予定である.
それぞれについて1-3週程度で講ずる.
- (1) イントロダクション
- (2) 西欧における科学の誕生と発展
- (3) 江戸時代の科学
- 1. 天文学
- 2. 医学
- 3. 蘭学と洋学
- (4) 近代日本の科学
- 1. 明治維新前後の科学
- 2. 明治期日本の西洋科学の導入
- 3. 大正期日本における科学の定着
○伊藤和行「科学史入門II」(講義)(後期水2)
〔授業の概要・目的〕
科学とは時間や空間を超えた普遍的なものと一般にみなされている.しかし人間の営みである以上,科学も歴史のなかで誕生し発展してきたものであり,その成果も歴史的な文脈によって規定されている.
とりわけ近代科学は17世紀西欧社会において誕生したと考えられ,「科学革命」と呼ばれている.「科学革命」を当時の歴史的コンテキストの中で科学的活動を理解することは,現代科学の理解にとっても重要である.
〔授業計画と内容〕
本授業では,西洋世界における科学の歩みを,古代ギリシアから17世紀「科学革命」までたどる.
具体的には,近代科学誕生の際に中心となった天文学と運動論の歴史的変遷を考察する.
次のような計画に従って講義を進める予定である.
それぞれについて1-3週程度で講ずる.
- 1. イントロダクション
- 2. 天文学の歴史
- 2-1. 天体の運動について
- 2-2. 古代の天文学:地球中心説(プトレマイオスの理論)
- 2-3. 近代の天文学:太陽中心説(コペルニクスからガリレオへ)
- 3. 運動論の歴史
- 3-1. 古代・中世の運動論:アリストテレスと中世の哲学者たち
- 3-2. 近代の運動論:ルネサンスの技術者とガリレオ
- 4. 17世紀科学革命:ニュートンと近代力学の誕生
○伊勢田哲治「 科学哲学入門(上)」(講義)(前期水3)
〔授業の概要・目的〕
科学哲学は「哲学」という視点から「科学」に切り込む分野である。本講義では、多様化のすすむ科学哲学のさまざまな研究領域を紹介し、受講者が自分の関心に応じて今後掘り下げていけるような「入り口」を提供する。 前期の講義においては、科学とはなにかという問題、科学的推論や科学的説明をめぐる問題を、科学全体に関わるテーマと個別の領域に関わるテーマに分けて論じる。
〔授業計画と内容〕
以下のそれぞれのテーマに2~3週をかけて論じる。
- 1 科学とは何か
- 2 科学的推論
- 3 個別科学における科学的推論
- 4 科学的説明
- 5 個別科学における科学的説明
○伊勢田哲治「 科学哲学入門(下)」(講義)(後期水3)
〔授業の概要・目的〕
科学哲学は「哲学」という視点から「科学」に切り込む分野である。本講義では、多様化のすすむ科学哲学のさまざまな研究領域を紹介し、受講者が自分の関心に応じて今後掘り下げていけるような「入り口」を提供する。 後期の授業では科学的実在論や科学の変化、科学と価値などのテーマを順にとりあげ、関連する個別科学におけるテーマも検討する。
〔授業計画と内容〕
以下のそれぞれのテーマに2~3週をかけて論じる。
- 1 実在論と反実在論
- 2 個別科学における実在論問題
- 3 科学の変化と科学革命
- 4 個別科学における変化の問題
- 5 科学と価値
*特殊講義(学部・大学院共通)
○伊藤和行「ラザフォードと原子核物理学の誕生」(特殊講義)(前期木2)
[授業の概要・目的]
この授業では,英国の物理学者ラザフォード(Ernst Rutherford)を中心に,20世紀初頭における原子核物理学の誕生の過程を検討する.この時期には,放射線,放射能,放射性崩壊が相次いで発見され,原子内の現象を扱う原子核物理学が誕生した.この研究で中心的な役割を果たしたラザフォードの論文の読解を通じてこの過程を考察する.
[授業計画と内容]
以下の項目に従って進める予定である.
それぞれについて1-3回程度を当てる.
後半では,出席者も論文の読解をしてもらう予定である.
- 1:イントロダクション
- 20世紀初頭の物理学
- 放射線・放射能・放射性崩壊の発見
- ラザフォードの人生と業績
- 2:ラザフォードらの論文の検討
- 放射性と放射能
- α粒子
- 放射性崩壊
○伊藤和行「大森房吉と近代地震学の誕生」(特殊講義)(後期木2)
〔授業の概要・目的〕
この授業では,近代地震学の父と呼ばれる大森房吉の業績を取り上げ,19世紀末から20世紀初頭の日本における地震学,そして地球物理学について検討する.大森房吉の代表的業績である「大森公式」のほか,地震予知をめぐる議論に関しても考察する.
〔授業計画と内容〕
以下の項目に従って進める予定である.
後半では,出席者にも論文の読解をしてもらう予定である.
- 1:イントロダクション(各1回)
- 明治以降の科学の発展と地震学の誕生
- 大森房吉の人生と背景
- 2:大森房吉の科学的業績の検討
- 余震回数の時間的変化
- 初期微動継続時間と震源までの距離の関係
- 地震予知
○伊勢田哲治「リスクの哲学 Philosophy of Risk」(特殊講義)(前期金2)
〔授業の概要・目的〕
この特殊講義のテーマは科学の哲学的側面にかかわるさまざまな話題をとりあげる形で毎年変更されます。今回は科学技術にまつわるリスクを哲学的観点から考えます。リスクにまつわる哲学的な問題としては、リスクとはそもそも何か、リスクについてどのような考え方をすればよいか、リスクについて誰にどのような責任があるか、などがあります。この授業では、2012 年に出版された『リスク理論ハンドブック』などをてがかりにこれらの問題を順次扱って行きます。また、日本においてリスクをめぐるコミュニケーションや意思決定の問題は特殊な現れ方をしています。そうした特有な側面についても事例を使いながらあわせて考えて行きたいと思います。
〔授業計画と内容〕
授業は日本語と英語で行われます。
以下は扱うトピックの暫定的リストです。(一項目に1-2週かけます)
- 1 リスクの哲学の全体像
- 2 リスクと安全の概念
- 3 文化としてのリスク
- 4 事例研究(1): 公衆衛生とリスク
- 5 リスクと決定理論
- 6 リスク認知
- 7 リスクの倫理学
- 8 事例研究(2):地震のリスク
- 9 リスクと公平性
- 10 リスクと責任
- 11 事例研究(3):原子力のリスク
○伊勢田哲治「科学的実在論論争の過去と現在 」(特殊講義)(後期金2)
〔授業の概要・目的〕
科学的実在論論争は、科学が措定する観察不可能な対象の存在についてどのような態度をとるべきかということについての論争である。この論争の基本的な枠組みは1980年代につくられたが、関連する論争はそれ以前から行われており、なぜこの論争が現在の形をとっているかを理解するには、それまでの流れを理解することも重要である。今回の授業では、科学哲学において「実在」がどのように論じられてきたのかを歴史的なパースペクティブの上で捉え直すとともに、現在論争がどのような状況にあるか、とりわけ科学の諸分野における実在の問題について何が論じられているかを紹介する。
〔授業計画と内容〕
以下のようなテーマを扱う予定(一項目に1-2週かける)
- 第一部 歴史的背景
- 1 19世紀の論争
- 2 論理実証主義の実在に関する立場
- 3 論争の成立
- 第二部 現在の論争
- 4 構成的経験主義
- 5 悲観的帰納法と想定されざる対案
- 6 選択的実在論
- 7 パースペクティブ主義
- 第三部 さまざまな領域における実在の問題
- 8 物理学における実在論
- 9 歴史科学における実在論
- 10 化学における実在論
- 11 認知科学における実在論
- 12 まとめ
○隠岐さや香「自然科学と人文社会科学の系譜学」(特殊講義)(前期集中)
〔授業の概要・目的〕
近年は自然科学史だけでなく、経済学・社会学などの社会科学(Social Science)や文学・文献学などの人文(科)学(Humanities)の歴史研究が進展し、忘れられていた諸学の間の関係性や影響関係が見直されつつある。この講義ではいくつかの具体的事例や史料を用いつつ、主に17-19世紀の西欧世界で、自然科学・社会科学・人文科学という三つの分類が出現する経緯を思想史的に考察する。それにより、いわゆる文系・理系を越えた知の歴史として科学史を理解する視座の獲得を目指す。
〔授業計画と内容〕
- 1. イントロダクション
- 2. 人文主義とアカデミーの文化
- 3. 17世紀における科学と政治(1)統治の技法
- 4. 17世紀における科学と文芸(2)分野別アカデミー
- 5. 『百科全書』時代の学問体系
- 6. 蓋然性の探究と法学・数学
- 7. 18世紀の道徳科学(1)コンドルセの社会数学
- 8. 18世紀の道徳科学(2)文明史と進歩主義思想
- 9. 19世紀の道徳科学(1)観念の分析・統計学
- 10. 19世紀の道徳科学(2)政治経済学・司法
- 11. 自然科学から社会科学へ:ジョン・スチュアート・ミルの『論理学』
- 12. 社会科学から自然科学へ:ダーウィニズムと「分業」観
- 13. 「人文(科)学」の目覚めと自然科学
- 14. 人文社会科学・自然科学とジェンダー
- 15. 総合討論
○瀬戸口明久「環境としての科学技術」(特殊講義)(後期火3)
〔授業の概要・目的〕
この授業では、科学技術がどのように現代の環境をつくりあげているのか考える。現代においては、科学技術は単なる道具ではなく、私たちが生きる世界そのものをつくりあげている。それはどのようなものか、科学技術史と科学技術論の両面から検討していく。話題はおもに日本における歴史的な事例から取り上げるが、世界的な文脈についても視野に入れて論じる。
〔授業計画と内容〕
- 1.科学技術がつくる環境【2週】
- ガイダンス、3.11と科学技術論
- 2.自然環境【3週】
- 野生動物、野鳥、害虫
- 3.地下の人工環境【2週】
- 炭鉱、地下街、大気
- 4.都市の人工環境【2週】
- 時間、鉄道
- 5.人工環境としての地球【2週】
- 情報社会、人新世
- 6.環境の科学技術論【2週】
- 技術哲学、技術史
- 7.まとめと総括【1週】
- 8.フィードバック
*特殊講義(大学院)
○伊勢田哲治「科学技術と社会に関わるクリティカルシンキング」(大学院横断科目)(後期火5)
〔授業の概要・目的〕
伊勢田ほか編『科学技術をよく考える』をテキストとして、科学技術と社会の接点で生じるさまざまな問題についてディスカッションを行い、多面的な思考法と、思考の整理術を学んでいく。理系の大学院のカリキュラムでは、科学と社会の関わりについて学ぶ機会はそれほど多く与えられない。他方、東日本大震災後の状況に特に顕著にあらわれているように、科学技術が大きな影響をおよぼす現在の社会において、研究者が自らの研究の社会的含意について考えること、アカデミズムの外の人々と語り合うことの必要性は非常に高まっている。そうした必要性に答えるため、広い視野と適切な思考の技術を持った大学院生を養成することが本授業の目的である。
〔授業計画と内容〕
授業はテーマにそったグループディスカッション、全体ディスカッション、講義、演習の組み合わせで行われる。
テキストは以下の10のテーマから構成されているが、本授業ではそのうち6つをとりあげ、関連する知識やスキルとあわせて各2回程度を使って議論を行う。
・遺伝子組み換え作物 ・脳科学の実用化
・喫煙 ・乳がん検診
・血液型性格判断 ・地球温暖化
・地震予知 ・宇宙科学・技術への公的投資
・動物実験 ・原爆投下の是非を論じること自体の正当性
取り上げる題材は受講者の興味も踏まえて決定する。初回に前半のテーマ3つを決定する。5回目の授業で後半のテーマ3つを決定する。
*演習(学部・大学院共通)
○伊藤和行「マクリントックと「動く遺伝子」の発見」(演習)(前期火3)
〔授業の概要・目的〕
この授業では,米国の遺伝学者マクリントック(Barbara McClintock)を取り上げ,20世紀中頃の遺伝学の歴史に関する理解を深める.マクリントックは,トウモロコシにおける「動く遺伝子」(トランスボゾン)の発見によって,ノーベル生理学賞を受賞している.彼女の論文の読解を通じて,当時の遺伝学の実験と理論について考察する.
〔授業計画と内容〕
イントロダクション(2回)ののち,マッキントックの英語論文を読解する.
以下の項目に従って進める予定である.
- 1:イントロダクション
- 20世紀遺伝学の概要
- マクリントックの人生と行政記
- 2:マクリントックの論文読解(読解する論文の順序については出席者と相談の上決定する)
- “Correlation of cytological and genetical crossing-over in Zea mays.” (1931)
- “Mutable loci in maize.” (1951)
- “The significance of responses of the genome to challenge”(Nobel lecture) (1983)
○伊藤和行「ナイチンゲールと医療統計の誕生」(演習)(後期火2)
〔授業の概要・目的〕
この授業では,ナイチンゲール(Florence Nightingale)を取り上げ,19世紀における医療統計学の誕生過程に関する理解を深める.ナイティンゲールは,クリミア戦争における英国軍病院の状況に関する統計報告を作成したが,これは医療統計の始まりと評価されている.この報告書の読解を通じて,当時の統計学について考察する.
〔授業計画と内容〕
最初の2回程度をイントロダクションにあて,以後15回までナイチンゲールの論考を講読する.
以下の項目に従って進める予定である.
- 1:イントロダクション
- 19世紀の医療と統計学
- ナイチンゲールの人生と業績
- 2:ナイチンゲールの医療統計学の論考
- Notes on Matters Affecting the Health, Efficiency and Hospital Administration of the British Army (London, 1858)
○伊勢田哲治「フィールド科学における測定 」(演習)(前期金3)
〔授業の概要・目的〕
科学哲学は伝統的に物理学をはじめとした厳密科学を主な研究対象としてきた。その背景として、そうした分野は論理学などのツールを使った分析が行いやすいといった理由が考えられる。しかし、近年になって観察科学や社会科学など、厳密な測定の難しい非厳密科学にも科学哲学の分析が及ぶようになってきた。この演習ではMarcel Boumansの『ラボの外の科学:フィールド科学と経済学における測定』を手がかりに、フィールド科学における測定はどういう問題に直面し、それをどう解決していけばいいのか、そのことについて科学哲学は何が言えるのか、を一緒に考察していきたい。
〔授業計画と内容〕
以下のテキストを輪読形式で読み、内容についてディスカッションを行う。
Boumans, M. (2015) Science Outside the Laboratory: Measurement in Field Science and Economics. Oxford University Press.
第4章までを主に読む。
基本的に一回の授業でテキスト15ページ程度を読み、それについてディスカッションする形ですすめる。学生は一人ないし複数で一回の発表を担当する(担当者は事前に決めておく)。
○伊勢田哲治「文化進化論の現在」(演習)(後期金3)
〔授業の概要・目的〕
ロバート・ボイドはピーター・リチャーソンとの共同研究による「二重継承説」で知られる人類学者である。これは人類進化(とりわけ協力行動の進化)において生物学的進化と文化的進化の相互作用が重要な役割を果たしてきたという立場である。今回の演習では、ボイドの講義と数人の論者によるボイドへのコメントを集めた『異なる種類の動物:文化はいかに人類を変えてきたか』を手がかりに、文化進化論の現在について考える。
〔授業計画と内容〕
以下のテキストを輪読形式で読み、内容についてディスカッションを行う。
Boyd, R. et. al (2018 ) A Different Kind of Animal: How Culture Transformed Our Species. Princeton University Press.
ボイドによる第一章とコメンテーターによる第三章-第五章を中心に読む。
基本的に一回の授業でテキスト15ページ程度を読み、それについてディスカッションする形ですすめる。学生は一人ないし複数で一回の発表を担当する(担当者は事前に決めておく)。
○伊藤和行・伊勢田哲治「科学哲学科学史セミナー」(演習)(前期 水4)
〔授業の概要・目的〕
科学史および科学哲学における、基礎的な知識の理解を向上させるとともに、近年の研究動向についての知識を得る。それらを基盤として、卒業論文/修士論文の作成に必要な基礎的な力を養う。また関連する研究会や学会での発表に向けて、日本語および英語での発表の技量を磨くとともに、研究会誌や学会誌への投稿へ向けて執筆に必要な基礎力を養う。
〔授業計画と内容〕
授業に出席する各学生に研究の進行状況を報告してもらい、研究テーマの設定、先行研究についての理解などについて個別に指導を行う。研究会や学会の発表に備えてそのシミュレーションを行ってもらい、各自のプレゼンテーション技法について指導を行う。発表順や具体的な発表課題・内容等については、出席学生と担当教員とで相談をして決める。
○伊藤和行・伊勢田哲治「科学哲学科学史セミナー」(演習)(後期 水4)
〔授業の概要・目的〕
科学史および科学哲学における、基礎的な知識の理解を向上させるとともに、近年の研究動向についての知識を得る。それらを基盤として、卒業論文/修士論文の作成に必要な基礎的な力を養う。また関連する研究会や学会での発表に向けて、日本語および英語での発表の技量を磨くとともに、研究会誌や学会誌への投稿へ向けて執筆に必要な基礎力を養う。
〔授業計画と内容〕
授業に出席する各学生に研究の進行状況を報告してもらい、研究テーマの設定、先行研究についての理解などについて個別に指導を行う。研究会や学会の発表に備えてそのシミュレーションを行ってもらい、各自のプレゼンテーション技法について指導を行う。発表順や具体的な発表課題・内容等については、出席学生と担当教員とで相談をして決める。
○矢田部俊介「論理学演習1」(演習)(前期 火5)
〔授業の概要・目的〕
本授業の最終的な目標は、受講者が論理的で明晰な思考に慣れ、何かを主張する際にはその主張がどのような根拠に基づいているかを明確化し、抜けも漏れもない論証ができるようになることである。そのための練習の題材としては、哲学的論理学、そのなかでも 「論理とは何か」という問題をとりあげる。我々は日常、推論を行い、そして「論理的」という言葉をよく使う。もちろん「論理的」であることが要求される。 しかし、「論理」とはいったい何だろうか。日頃、無反省に、知っているつもりで使っている概念の意味を問い直すのは、哲学の重要な仕事の一つである。
本演習では、数学における定理の証明がシミュレートできる、「論理」と呼ばれうるような、記号を処理する体系(「形式的体系」)を紹介する。 具体的には、最小述語論理の自然演繹の体系の解説と問題演習を行う。
〔授業計画と内容〕
最小述語論理は、論理結合子の導入規則と除去規則のみを持つ、基本的な論理体系の一つである。前期の前半は、まず最小述語論理の自然演繹の体系を紹介する。問題演習を通じ、各自が自然演繹の証明が出来るようになることが目標である。また、後半には、最小論理上で算術の体系「最小算術Q」を例に、数学における多くの証明が最小論理で遂行可能であることを示す。同時に、原始再帰法など計算の基本概念を紹介する。
具体的な授業計画は以下の通り。
-
-
- ①論理学とは何をする学問か
- ②形式言語
- ③最小命題論理の⇒-導入規則および除去規則
- ④最小命題論理の∧、∨-導入規則および除去規則
- ⑤最小命題論理の問題演習
- ⑥遠回りのない証明
- ⑦量化子と最小述語論理
- ⑧最小述語論理の∀-導入規則及び除去規則
- ⑨最小述語論理の∃-導入規則及び除去規則
- ⑩最小述語論理の問題演習
- ⑪形式的な自然数論
- ⑫原始再帰的関数と”2+2=4″の証明
- ⑬再帰関数の数値的表現可能性
- ⑭総合演習
- ⑮形式的な論理学と言語の哲学
-
○矢田部俊介「論理学演習2」(演習)(後期 火5)
〔授業の概要・目的〕
我々は日常的に推論を行う。また「論理的」という言葉をよく使う。哲学においてももちろん「論理的」であるこ とが要求される。 しかし、「論理」とはいったい何だろうか。日頃、無反省に、知っているつもりで使っている概念の意味を問い直すのは、哲学の重要な仕事の一つである。
また「論理」とはいったい何かという問題は、現代の大きな問題である。というのも、20世 紀以降、古典論理の体系以外にも多くの異なる論理体系が提案されているからである。それらの非古典的な体系が論理と呼ばれるなら、ある体系が「論理」と呼ばれるためには、どんな性質を満たしていることが必要だろうか。
本演習では、最小述語論理の自然演繹の体系の解説から始め、最小論理・直観主義論理・古典論理での論理式の証明とそのモデルを使った議論が出来るようにすることを目的とする。その中で、単なる記号の処理を行なう体系が「論理」と呼ばれるにはどんな性質を満たす必要があるかを考察する。
〔授業計画と内容〕
前半では、前期に紹介した最小述語論理を例にとり、論理結合子の意味とは何かを、「証明論的意味論」と呼ばれる立場から考察する。具体的には、ベルナップの「トンク」の例を題材に、論理結合子の条件とは何かを考え、保存拡大性や証明の正規化といった論理学の基本概念を理解することを目指す。 後半では、最小論理に論理規則を付加し拡張した論理体系を紹介する。つまり、最小論理に矛盾律、 排中律と論理規則を加え、直観主義論理、古典論理の体 系を得る。これらの例により、論理規則が加わるにつれて、論理式の証明は難しくなるものの、そのモデルは簡単になることを示す。また、その考察により、健全性や完全性といった記号とモデルの関係に関する基本概念の理解を目指す。
最後に、論理学の話題として、ゲーデルの不完全性定理等も紹介する。
具体的な授業計画は以下の通り。
-
- ①論理結合子の意味とは何か、意味の理論1と意味の理論2
- ②意味の理論2と論理結合子の条件:プライアーの「トンク」、ベルナップの保存拡大性
- ③プラヴィッツの「反転原理」
- ④ダメットと証明の正規化可能性
- ⑤「ホームズ論法」と矛盾律、直観主義論理
- ⑥直観主義論理の問題演習
- ⑦排中律と古典論理
- ⑧古典論理における証明・問題演習
- ⑨古典論理と真理表
- ⑩古典論理と完全性定理
- ⑪完全性定理の証明
- ⑫総合演習
- ⑬(エクストラ課題)ゲーデルの不完全性定理
- ⑭(エクストラ課題)ゲーデルの不完全性定理の証明
- ⑮(エクストラ課題)不完全性定理の意義
授業時間割表
※上段は前期を、下段は後期を表す
1限 | 2限 | 3限 | 4限 | 5限 | |
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月 | |||||
火 |
伊藤 演習 |
伊藤 演習 マクリントックと「動く遺伝子」の発見 瀬戸口 特講 |
矢田部 演習 論理学演習1 矢田部 演習 伊勢田 特講 科学技術と社旗に関わるクリティカルシンキング |
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水 | 伊藤 講義 科学史I 伊藤 講義 |
伊藤・伊勢田 科哲史セミナーI 伊藤・伊勢田 |
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木 | 伊藤 特講 ラザフォードと原子核物理学の誕生 伊藤 特講 |
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金 | 伊勢田 特講 リスクの哲学 伊勢田 特講 |
伊勢田 演習 フィールド科学における測定 伊勢田 演習 |
集中・その他
(前期集中)特講 隠岐「「自然科学と人文社会科学の系譜学」