【文学部公開シンポジウム人文】社会科学と倫理的・法的・社会的課題(ELSI)研究
今年も例年のように、文学研究科の公開シンポジウムを開催いたします。今回は、「人文・社会科学と倫理的・法的・社会的課題(ELSI)研究」をテーマとしてシンポジウムを企画しました。
「倫理的・法的・社会的な課題」は、Ethical, Legaland Social Implications/Issues の訳で、ELSIと略されます。1990年に米国主導でヒトゲノム解析プロジェクトが開始された際に、ゲノム解析という科学的発展が我々の倫理、法、社会一般にもたらす影響の研究に予算の一定割合を支出することが定められ、その研究領域がELSIと呼ばれました。その後、生命医学系の研究を中心に、ナノテクノロジー、Al、空飛ぶ自動車など、さまざまな分野の新しい科学技術が導入される際に、それらのELSIについても研究することが一般的になりました。国際的には、 ELSIの概念を発展させる形で「責任ある研究・イノベーション」(Responsible Research Innovation, RRI)などの概念も提唱され、新技術の導入の際にこうした視点から検討をする必要性は広く認知されているといってよいと思います。
日本では、2006年の第三期科学技術基本計画以降、科学技術の倫理的・法的・社会的課題に取り組むことが明記されるようになり、2021年に策定された第6 期科学技術・イノベーション基本計画ではELSIという略称も使われるようになりました。この計画では「新たな技術を社会で活用するにあたり生じるELSIに対応するためには、俯瞰的な視野で物事を捉える必要があり、自然科学のみならず、人文・社会科学も含めた「総合知」を活用できる仕組みの構築が求められている」と述べられています。こうしたELSIの必要性についての社会的認知度の高まりを踏まえ、国内でもいくつかの大学でELSIセンターが設置されました。
ELSIという言葉の中に「倫理的課題」や「社会的課題」が含まれている以上、ELSI研究の基礎的な部分に文学研究科・文学部で行われるような人文・社会科学の研究が関わるはずであることは間違いないでしよう。また、実際、日本においてヒトゲノム解析研究が行われた際には、京都大学文学部の倫理学研究室が ELSI研究の中心となりました。しかし、倫理学をはじめとした関連分野の基礎的な人文・社会科学的研究と、一般にELSIと呼ばれる研究をどのようにリンクさせるのがよいのでしようか。そうした人文・社会科学的研究も踏まえた学際的な研究としてのELSIの研究はどのように進められるべきでしようか。
ことについては、まだ十分に議論がなされているとは言えない状況にあります。
そこで本シンポジウムでは、ゲノム研究のELSIや宇宙開発研究のELSIといった具体的なテーマを題材にしつつ、また、実践的なELSI研究の現状や課題を一方で確認しつつ、人文・社会科学のこれまでのELSIへの関わり方について具体的に考えていきます。それを踏まえて、総合討論では、今後のあるべきELSI 研究の姿と、そこにおける人文・社会科学の役割について議論を行います。
日時: 2022年12月25日(日) 13 : 00-17 :30 (開始・終了時刻は仮)
開催形態:文学研究科第3講義室(対面・オンライン中継のハイプリッド形式) 参加無料・申込先着順(現地参加先着70名・オンライン先着480名)
報告者
伊勢田哲治 本研究科教授(科学哲学・倫理学)
横野恵 早稲田大学社会科学部准教授(医事法・生命倫理)
標葉隆馬 大阪大学・社会技術共創研究センター准教授(科学社会学・科学技術政策論)
コメンテーター
宇佐美誠 本学地球環境学堂教授(法哲学)
清水雄也 本学宇宙総合学研究ュニット特定助教 (科学哲学)
司会
児玉聡 本研究科教授(倫理学)
参加には事前登録が必要です。下記URLよりお申し込みください。
https://docs.google.com/forms/d/1RhgT1jCKlW4wrOf0ALI0pY7N_81DiK7xzlzc89XIvAw/edit
主催:京都大学大学院文学研究科・協賛:京大以文会
お問い合わせ:京都大学文学研究科総務掛(TEL 075ー753-2700)