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Channel: 京都大学 大学院文学研究科・文学部
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2020年度京都大学文学研究科・文学部公開シンポジウム開催報告

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2020年度京都大学文学研究科・文学部公開シンポジウム
デジタル人文学の世界へ

12月5日(土)、コロナ禍のもと、例年第3講義室で行われているシンポジウムがオンラインで開催されました。本年度のテーマは「デジタル人文学の世界へ」で、当該分野の第一線で活躍されている3名のパネリストをお迎えして、人文知連携拠点の企画・進行で実施いたしました。

人文知連携拠点は人文知連携センター内に置かれている、専門分化した人文知の領域を横断する知の枠組を創造し、社会に発信するための部門であり、この度は人文学とコンピューティングとの接合や協働を展望する「デジタル人文学」について議論する場を設けました。目新しい方法としての時期を越え、「人間とは何か」を根源的に問いかけてきた人文学にとっても、基本的リテラシーとしてとらえうる時期にさしかかった「デジタル人文学」の課題と、あるべき教育のありようについて考えようとのことからです。

シンポジウムは、松田素二拠点長からの開会の辞で始まり、まずは国立情報学研究所が公開している日本の論文検索サイトで、おそらく使ったことのない研究者は少ないのではないかと思われるほどに普及しているCiNiiの中心的開発担当者であり、現在は東京大学人文社会系研究科・文学部付属次世代人文学開発センター・人文情報学部門准教授の大向一輝さんからの報告がありました。大向さんは、主要なデジタル人文学分野を人文学と情報学の交差する領域と位置付け、「人文学研究への情報技術の適用」と「情報学研究への人文学の知見の適用」との両面を持つことを指摘されました。そしてこの分野になじみのない参加者にもわかりやすく、Google Books Ngram Viewerなどの有名な事例を使って、大量のテキストデータが得られた場合に、それを「遠読」することでどのような知見が得られるか(大規模化)や、資料に内在する知識の明示化や体系化(多層化)、人文学研究の資料の充実を協働作業で図ることのできる可能性(共有と協働)の3つの特徴について説明されました。そして、デジタル人文学の課題として、大規模化については解釈や説明は技術が示したデータだけからでは行えないこと、多層化についてはデータを作成することの手間を誰が負うのかということ、共有と共同については参加者をどう集めるかと結果の信頼性をどう保つかということを挙げられました。その上でデジタル人文学教育について、東京大学で実践されている教育内容の概要をご紹介いただきました。

次の報告者は、一般財団法人人文情報学研究所主席研究員の永崎研宣さんでした。永崎さんはデジタル人文学の領域のパイオニアのひとりで、東京大学ほかでのデジタル人文学教育にも早くから携わって来られました。今回の発表では、デジタル人文学では、「方法論の共有地」と呼ばれる、広く活用できうる知見・技術の共有が進んでおり、分析結果、分析手法、それを実現する構築手法、教育手法、共有手法、それらに基づく実践などを共有し、その共有地に貢献することが成果とみなされていることを紹介されました。こうした貢献について、学会でどう評価するかについて、アメリカでは歴史学や文学の領域でガイドラインが提示されていることなどにも触れられました。そして内容における新規性や汎用性をもとめる人文学各分野と、手法としての新規性や汎用性を求めるデジタル人文学分野とが相互に刺激しあっており、人文学研究者はその双方の広がりの中で、ときには人文学寄りに、ときにはデジタル人文学寄りに、と自在に研究成果をだしていくことができる可能性を示唆されました。そして大向さんとともに取り組んでいる東京大学でのデジタル人文学教育では、「人文情報学概論」において、前期には人文学研究側に寄った情報リテラシーの習得を目標に、最新の技術動向を踏まえた内容を教えているのに対し、後期にはデジタル人文学に寄った、情報処理学会の人文科学とコンピュータ研究会の学生セッションでの発表を目指して指導するといった具合に、この両輪をバランスよく意識したカリキュラムを作っていることを紹介されました。

最後に国立歴史民俗博物館テニュアトラック助教の橋本雄太さんに、人文学研究者から、デジタル人文学のツール開発まで行うようになった、ご自身のキャリアをふりかえることを通じて、デジタル人文学教育のあり方についての見通しについて考えておられることをお話しいただきました。本研究科の旧情報・史料学での情報学と人文学の融合したカリキュラムにおいて、プログラミングの力もつけたことなどが紹介されるとともに、総合大学として古くから学際研究が盛んだった京都大学らしい繋がりを生かした、文理融合の古地震研究会において、大向報告にも触れられていたデジタル的な協働作業による古地震関係史料の翻刻プロジェクトのシステム開発も行なったことが報告されました。

発表ごとに、フロアからも活発な質問が寄せられ、オンラインでのシンポジウムの良さを生かして質問内容を報告者も他の参加者も詳しく読みながら、質疑応答することができました。3つの報告後のディスカッションでは、これからのデジタル人文学教育のあり方について、JDH(日本デジタル・ニューマニティーズ学会)でも外国のシラバスを集めて共有したりし始めていること、またさまざまな大学で行なっている授業についてのリソースを共有する可能性についても話し合われました。また人文学にとっての情報リテラシーという観点から、どの程度の深さまで技術の理解に導くかについては引き続き検討が必要なことや、人文系の研究者と情報学の研究者が協力していくにはお互いの領域についての理解が必要なことなどについて討論しました。最後にデジタル人文学分野で標準化やルールの共有が進展していることについて、再確認して会を終えました。


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