11月24日~29日に、上海の復旦大学文史研究院において、第八回東アジア人文研究博士学生ワークショップが開催されました。京都大学文学研究科からは、中国語学中国文学専修、中国哲学史専修、東洋史学専修、地理学専修、哲学専修の大学院生、ならびに田中和子名誉教授、成田健太郎准教授、池田恭哉准教授が参加しました(オンラインでの参加者を含む)。
本ワークショップは、2013年より復旦大学と京都大学の合同で開始され、2017年より香港城市大学も加わって、三校合同のワークショップとなりました。第七回までは毎年順調に回を重ねましたが、コロナ禍の影響でしばし中断し、今回は久しぶりの開催となりました。
まず25・26日の両日、ワークショップにて学生が研究発表を展開しました。発表者数は復旦大学15名(主催校)、香港城市大学13名、そして京都大学11名の計39名を数え、全部で9つのセッションに分かれましたが、司会やタイムキーパーの任も三校の学生が協力して担いました。それぞれの研究発表(1人15分)が充実していたことは言うに及びませんが、各セッションの最終盤の質疑応答では、一つの質問が次の質問を誘発し、学生同士が活発に自らの意見を提示し、また相手の意見を吸収しようとしている様子が見て取れました。またワークショップ最後の円卓討論では、質疑応答で取り上げきれなかった論点が各方面から提起され、各自の今後の研究推進にとって、貴重な場となったと信じます。
ワークショップの興奮も冷めやらぬ27日の朝からは、1泊2日のフィールドトリップに出かけました。まず清朝考証学を代表する学者・顧炎武の出身地たる江蘇省崑山千灯を訪問し、日頃その著作に触れてきた顧炎武の墳墓に参ることができました。また顧炎武は明を倒した清に仕えることを拒み、遺民として生きようとしたのですが、そうした彼の愛国精神に対する顕彰が目立ち、歴史に対する現代中国の需要も垣間見ることとなりました。
崑山ではさらに歇馬橋(江南水郷の保存地区)を散策した後、祝甸地区に足を伸ばしました。ここでのハイライトは、祝甸大礼堂にて民間に伝承される語り物(「宝巻」)を聴く機会を得たことです。崑山と言えば崑曲が有名ですが、今回の語り物は地元でしか聴くことができません。孝子にまつわる故事「王華買父」に基づく内容が、弦楽器の音色に乗せて独特の節回しを伴い現地の方言で語られ、多様な文化のあり方を実体験しました。
翌28日は、午前中に浙江省湖州南潯の嘉業堂蔵書楼を訪問しました。中国学を専攻する者にとって、嘉業堂叢書は大変に馴染みのあるものですが、蔵書楼の内部にはなお大量の蔵書、さらには叢書を出版した際の版木が残されており、今回は浙江図書館の専門員の方の解説付きで蔵書楼を自由に参観し、多数の版木を手に取るという幸運に恵まれました。蔵書楼全体が有する古典の醸し出す香りとでもいうものは、ここ数年定番となったオンラインでは絶対に味わえないことを、改めて実感しました。
午後は南潯古鎮を自由散策し、水の豊かな江南の風土に親しみました。さらに上海へ戻る途中には、若手農家の皆さんが有機栽培に力を入れている農場を見学しました。中国ではこれまでの化学肥料や農薬を使う農業から転換し、心身の健康を追求する志向が高まっているとのことで、ここでも現代中国の様子を知ることができました。
コロナ禍の最中も、三校の教員や学生がオンラインで意見交換を行なう場がありました。しかし今回のワークショップ、フィールドトリップでは、実際に現地に行き、直に触れ合うことの大切さを再認識させられた気がします。今後もこの三校の密な関係を持続し、第九回、第十回とワークショップが継続するよう期待しながら、久しぶりの海外渡航を終えました。
ワークショップの様子は、こちらをご覧ください。
なお本事業は、一般財団法人橋本循記念会 令和5年度(2023年)研究交流活動助成(前期)「京都大学―復旦大学―香港城市大学「東アジア人文研究討論会」」の助成を受けました。